竜の迷宮と錆びた剣 君が主人公になるアドベンチャーゲームブック 奥山晋 ページをめくる

この本の遊び方

この本では、君が主人公だ。

場面の終わりには、いくつかの選択肢が出てくる。どれか一つを選んで、示された番号の場面へ進んでほしい。

道を誤ると、冒険はそこで終わってしまうこともある。そのときは「やり直す」を選べば、迷った場面へ戻ることができる。

それでは、冒険を始めよう。君の旅は、山あいの小さな村から始まる。

竜の迷宮と錆びた剣

君が主人公になるアドベンチャーゲームブック

奥山晋 作

© 二〇二六 奥山晋

1

君は長い旅の途中、山あいの小さな村にたどり着いた。夕暮れの広場には、不安げな顔の村人たちが集まり、ひそひそと何かを話し合っている。

よそ者の君に気づくと、白いひげの村長が杖をつきながら進み出て、深く頭を下げた。

「旅のお方。北の山の洞窟に黒い竜が棲みつき、夜ごと家畜をさらっていくのです。もう羊も牛も半分になってしまいました。このままでは、村は冬を越せません」

村長の背後で、母親が幼子をぎゅっと抱きしめた。遠い山の頂からは、細い煙が一筋、赤い空へ昇っている。

君の腰にあるのは、刃こぼれした錆びた剣が一本きり。腕に自信があるわけでもない。それでも村人たちは、すがるような目で君を見つめている。

7

「おお、引き受けてくださるか!」

村長は顔をほころばせ、君を自分の家へ招き入れた。炉端に腰を下ろすと、棚の奥から古びた羊皮紙の巻物を取り出して広げる。描かれているのは、深い森と険しい山、そして山腹にぽっかりと開いた洞窟だ。

「竜の迷宮へは、この森を抜けて行くのが近道じゃ。森の奥には、勇者の剣が眠るという言い伝えの残る場所もあると聞く。わしの祖父の、そのまた祖父の代の話じゃがな」

窓の外では、村の子どもたちが鼻を押しつけるようにして、君の様子をのぞき込んでいる。

君は地図を受け取り、錆びた剣の柄を握りしめた。夜明けとともに、君は村を発った。

12

「……そうですか」村長は肩を落とし、村人たちは黙って家へ戻っていった。

君はなんとなく村に居着き、空き家を借りて畑を耕しはじめた。春に種をまき、夏に草を抜き、秋に収穫する。それを三十年繰り返すうちに、君は村一番のカブ名人として知られるようになった。君のカブは大きく、白く、そして甘い。

ある日、畑に一台の荷車がやってきた。積まれているのは山のような金貨と宝石。輝く鎧の若い騎士が、胸を張って言った。

「北の竜は、このわたしが倒しました! この村が困っていると聞いて、はるばる参ったのです」

君は黙って畑にかがみこみ、今年いちばんの大カブを引き抜くと、両手でうやうやしく差し出した。

騎士は、とても困った顔をした。

——おしまい

4

森は奥へ進むほど暗く、静かになっていった。ねじれた木の根が道をふさぎ、白い霧が足もとを流れていく。鳥の声さえ、いつの間にか聞こえなくなった。

やがて木々がひらけ、小さな空き地に出た。その真ん中に、苔むした大きな岩がある。

岩には、一振りの剣が深々と突き立っていた。十字の鍔に、丸い柄頭。ずいぶん古いものなのに、刃には錆ひとつ浮いていない。

梢の隙間から一筋の光が差し込み、まるで君を待っていたかのように、剣だけを照らしている。村長の話していた言い伝えの場所は、きっとここだ。

君は自分の腰の剣に目をやった。錆びて、刃こぼれした、頼りない剣だ。これで竜と戦えるとは、とても思えない。

10

君は岩に足をかけ、両手で柄を握った。

力を込めるまでもなかった。剣はまるで君の手を待っていたかのように、するりと岩から抜けた。

その瞬間、刃がまばゆい光を放ち、森じゅうの鳥がいっせいに飛び立った。光はしばらく空き地を満たし、やがて静かに刃の中へ吸い込まれていった。手の中の剣は、羽根のように軽い。

君は聖剣エクスカリバーを手に入れた!

錆びた剣は、岩の上にそっと置いていくことにした。ここまで一緒に旅をしてきた相棒だ。君は小さく礼を言い、新しい剣を背に負った。体の奥から、不思議な力が湧いてくるのを感じる。

地図によれば、竜の迷宮はもうすぐだ。

14

君は剣を横目に、空き地を通り過ぎた。抜けなかったら恥ずかしいし、なにより先を急ぐ旅なのだ。

そのすぐあと、木の実を拾いに来た村の子どもが、何気なく岩の剣に手をかけた。剣はするりと抜け、天からまばゆい光が降りそそいだ。

こうして、八歳の勇者が誕生した。

勇者には、荷物持ちが必要だった。寝袋、鍋、着替え、おやつ、絵本、それにペットの小鳥。君はそれをすべて背負い、小さな勇者のあとをどこまでもついていった。勇者は歩くのが速く、よく寄り道をした。

勇者は見事に竜を倒し、その名は歌になって国じゅうに広まった。歌は七番まであり、どの番にも勇者の名前が出てくる。荷物持ちの名前は、一度も出てこない。

——おしまい

9

山の中腹に、巨大な扉がそびえていた。扉には二つの竜の頭が彫られ、口から重い鉄の輪が下がっている。これが竜の迷宮の入口だ。

扉の前の地面は黒く焦げ、白い骨がいくつも転がっている。ここを正面から訪ねた者たちの、なれの果てだろうか。焦げ跡はまだ新しく、かすかに煙の匂いがした。

ふと見ると、扉の脇の岩陰に、蔦に隠れるようにして小さな穴が開いていた。人ひとりがやっと這って通れるほどの大きさだ。

しゃがんで顔を近づけると、穴の奥からひんやりとした風がかすかに吹き出してくる。どこか奥のほうへ、ずっと続いているらしい。大扉の向こうからは、ときおり、いびきのような低い音が聞こえてくる。

2

君は身をかがめ、蔦をかき分けて穴にもぐりこんだ。土と苔の匂いがする。

しばらく這って進むと、急に天井が高くなった。松明に火をともすと、岩壁に刻まれた古い彫刻が浮かび上がる。剣を掲げて竜と戦う人々の姿だ。昔にも、この道を通って竜に挑んだ者がいたのだろう。

足もとには石の階段が、闇の奥へと続いている。ネズミが数匹、君の足もとをすり抜けて先へ走っていった。この道は、きっと迷宮の奥へ通じている。ネズミたちは、行き先を知っているかのように迷いなく走っていく。

正面の扉を通らなかったのは正解だった。ここなら、竜に気づかれずに奥まで進めるはずだ。

階段の下のほうに、ぼんやりと温かい光が見えた。

13

君は大扉の前に立ち、鉄の輪をつかんで三度叩いた。ごん、ごん、ごん。重い音が山に響いた。

しばらくして、扉がきしみながら細く開いた。隙間からぬっと現れたのは、家ほどもある竜の頭だった。

竜は半分閉じた目で君を頭のてっぺんから足の先まで眺め、鼻から煙をひとすじ吐いた。

「……間に合ってます」

扉は閉まった。

君はあらためて扉を見た。札が下がっている。『竜在宅中 御用の方はノックを ※勧誘お断り』

どうやら、何かの売り込みと思われたらしい。それから何度叩いても、扉が開くことは二度となかった。三日目に、扉の札が一枚増えた。『ノックはお一人様一回まで』

——おしまい

6

階段を下りきると、石造りの地下室に出た。床に置かれた一本のロウソクが、ゆらゆらと部屋を照らしている。誰がともしたのかは、わからない。

部屋の真ん中に、鉄の帯で補強された立派な宝箱があった。その前には金貨が数枚、まるで誘うように散らばっている。

君は宝箱に近づき、そして足を止めた。蓋のわずかな隙間で、何かが白く光った気がしたのだ。牙のようにも見えた。耳を澄ますと、宝箱の中から、息を殺すような気配がする。そういえば、金貨の散らばり方もどこかわざとらしい。

部屋の奥には暗いアーチがあり、その先から温かい風と、遠い炎の明かりが漏れていた。竜の巣は、あの先にちがいない。

11

君は宝箱に背を向け、アーチをくぐった。

背後で、かすかに蓋のきしむ音がした。振り返らなくてもわかる。あれは、ただの宝箱ではなかったのだ。じっとりとした視線が、いつまでも背中に張りついている。

通路は下へ下へと続き、空気はしだいに熱く、硫黄の匂いが濃くなっていく。天井からは鍾乳石が牙のように垂れ下がり、ときおり熱い滴が落ちてくる。

やがて、通路の先が赤々と輝きはじめた。地鳴りのような、重く低い寝息が聞こえる。そのたびに、足もとの小石がかたかたと震えた。君は息を殺し、足音を立てないように進んだ。

竜の巣は、もう目の前だ。君は背中の聖剣の柄に、そっと手をかけた。

3

君は蓋に手をかけ、一気に開けた。

中に宝はなかった。あったのは、ずらりと並んだ牙と、だらりと垂れた長い舌、そして暗がりからこちらを見上げる二つの大きな目だった。ミミックだ!

君は剣を構えた。だが、ミミックは襲いかかってこなかった。代わりに、その目から大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。

「開けてくれたのは……百年ぶりだ……」

それからミミックは、この百年の話を始めた。最初の十年がいかに退屈だったか。次の十年、ネズミとどんな言い争いをしたか。君は床に座り、相づちを打ちながら聞いた。ロウソクが燃え尽き、新しいロウソクをともし、それもまた燃え尽きた。

話はようやく三十年目に入ったところだ。

——おしまい

15

そこは、とてつもなく広い洞窟だった。床一面に金貨が山と積まれ、杯や宝石が炎の明かりにきらめいている。村から奪われた羊の鈴も、その中に混じっていた。

財宝の山の上で、黒い竜がゆっくりと身を起こした。広げた翼は洞窟の壁から壁へ届き、開いた喉の奥で、炎が渦を巻いている。

「よくぞここまで来た、小さき者よ。だが、ここが貴様の旅の終わりだ」

竜の声が洞窟を揺らし、天井から砂がぱらぱらと降ってきた。足がすくみそうになる。

そのとき、背中の聖剣がかすかに熱を帯びた。まるで「我を抜け」と言っているかのように。君はもう、錆びた剣しか持たない旅人ではない。

8

君は聖剣を抜き放ち、竜に向かって駆け出した。

竜が吐いた炎は、聖剣の光に触れたとたん左右に裂けた。熱風が頬をかすめる。君は財宝の山を駆け上がり、渾身の力で剣を振り下ろした。

長い長い咆哮が洞窟に響き、そして静かになった。竜の巨体がゆっくりと崩れ落ち、財宝の山から金貨がざらざらと流れ落ちた。

数日後、村の広場は花と旗で飾られていた。財宝を山と積んだ荷車が到着すると、村人たちは歓声を上げ、子どもたちは荷車を追いかけて走った。荷台には、竜の大きな角も載っている。村長は両手を天に掲げ、何度も君に礼を言った。

こうして君は、村を救った勇者となった。君の旅の話は、この村で長く語り継がれることになる。

——めでたし、めでたし

5

君は回れ右をして、来た道を全力で駆け戻った。背後で炎の轟音がしたが、一度も振り返らなかった。

村に戻った君は、酒場で語った。竜がいかに巨大で、いかに恐ろしく、そして自分がいかに勇敢に戦ったかを。

その夜から、君は毎晩、酒場のベンチの上に立って同じ話をした。話は夜ごとに少しずつ大きくなり、やがて竜は山ほどの大きさになり、首は三本に増え、君は三日三晩戦ったことになった。

カード遊びの手を止める者はいない。店主はジョッキを磨き続けている。テーブルの下で、犬が大きなあくびをした。

北の山からは、今日も細い煙が昇っている。君の話を信じている者は、一人もいない。

——おしまい